医中誌News
 

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医中誌Web(Ver.4) のリリースにあたり

 2005年10月4日(火)より、本公開(2006年1月予定)に先駆けて、医中誌Webの新バージョン「医中誌Web(Ver.4)」をテスト公開しています。このVer.4では、従来よりご要望の声が高かった、検索結果からオンラインジャーナル等へのリンク機能や、図書館の所蔵検索システムとの連携機能(OPAC連携)が実現しています。また、「医中誌Web」の利用層が広がる中、それぞれの利用層ごとに最適な仕様が異なる、という状況に対応するため、各機関ごとに検索条件などの環境設定を個別に変えることが出来る仕組みをあらたに作りました。
 7月に全国5箇所(札幌、東京、名古屋、大阪、福岡)で「医学中央雑誌ユーザー会」を開催し、関係者含め延べ400名近い方々が参加されました。参加された方々より、ユーザー会で発表したバージョンアップ内容について、多くのご質問やご要望を頂きました。そして、それらのご要望をあらためて汲み入れ、「Ver.4」の最終的な仕様を決定しました。
 お忙しい中、ユーザー会にご参加いただき、また、貴重なご意見を頂きました皆様に、この場を借りてあらためて御礼申し上げます。今後も、皆様の声に耳を傾け、サービスの改善に努めて参ります。
  なお、本号では、このVer.4の内容について詳細にお知らせする他、ユーザー会で発表した、研究班への参加など、普段あまり皆様にお伝えする機会が無い医中誌の対外活動を中心に、医中誌の今後の取り組みについても紹介しております。また、ユーザー会での講演−東京大学医学教育国際協力研究センター教授 北村聖先生による『医療の質の向上と文献情報の役割』、京都南病院理事 戸津崎茂雄先生による『病院図書室を地域に開放して−医学・医療情報のバリアフリー化を目指して』−の抜粋も掲載しています。

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「医中誌Web(Ver.4)」のご紹介(1)

● はじめに
 「医中誌Web(Ver.4)」では、検索結果からオンラインジャーナル等へのリンク、あるいは機関ごとの個別の設定が可能になるなど、Ver.3から新たな一歩を踏み出したサービスが実現します。本稿では、現在テスト公開中(本公開は2006年1月予定)の「医中誌Web(Ver.4)」第一段階のリリース内容についてご説明します。
 なお、各項目に関するより詳細な内容については、医学中央雑誌ホームページ、また、テスト公開版HELPをご参照下さい。

● オンラインジャーナル等へのリンク
 検索結果から、ワンクリックでフルテキストが読める、というのは、利用者にとってはその利便性において究極の形態と言えます。海外に比べ国内医学雑誌の電子化は出遅れてはいますが、「Ver.4」では「現存するサービスについては、極力医中誌からのリンクを確保する」ことを基本方針に据え、国内オンラインジャーナル等へのリンクを実現しました。
 現在、テスト公開版にてリンクが実現しているサービス(一部は追って公開)は下記のとおりです。なお、リンク先サービスは、フリーで公開されている場合と、認証が必要な場合があります。後者を閲覧するには、「医中誌Web」とは別個に、機関、あるいは個人での契約が必要です。
 また、ユーザー会で多く頂いた「リンクのアイコンは、サービスによっては出したくない場合もある」とのご意見にお応えし、下記のすべてのサービスについて、機関毎にアイコンを表示するかしないかを、「法人管理者用画面」で設定出来るようにしました。

●Medical Online
 (株)メテオインターゲートによる国内医学文献の全文PDF配信サービス「Medical Online」へのリンク。
Medical Onlineの収録誌400誌(2005年9月現在)中、375誌が医中誌採択雑誌です。「Medical Online」の一部の収録雑誌は、発行から一定期間全文PDFは提供されず、FAXによる配信となりますが、医中誌Webの検索結果にはそれぞれ異なるアイコンが表示され、いずれかが分かるようになっています。

●PubMed
 PubMed ID により、1文献単位でリンクが行われます。一部の文献については、PubMedから更にリンクを辿りフルテキストを閲覧することが出来ます。今回リンク対象とした雑誌は、"List of Journals Indexed for MEDLINE "(2005年版)のGeographic Listing において発行国「Japan」の元にリストされている 148 誌のほか、「日本の学会誌だが、外国の出版者によって刊行されている雑誌」「過去に MEDLINE に収録されていた雑誌」も含む、約380誌となっています。

●CrossRef
 DOI(Degital Object Identifier)により、1文献単位でリンクが行われます。J-Stage登載文献はここでリンクされます。一部の文献については、フリーでフルテキストが公開されています。

●PierOnline
 (株)サンメディアによる電子ジャーナルホスティングサイト「PierOnline」へのリンク。医中誌Webからのリンクとともに、PierOnlineの書誌画面から医中誌Webへのリンクも行われます。

●CiNii
 NII(国立情報学研究所)の学術コンテンツポータル「GeNii」中の、論文情報ポータルサイト「CiNii」との相互リンクです。CiNiiの一部の文献については、更に「NII-ELS(NII電子図書館)」のフルテキストにリンクが張られています。なお、このCiNiiとの相互リンクは、2006年3月以降となる見込みです。

 2005年11月現在、医中誌Webから上記の各サービスへのリンク件数はトータルで約50万件です(内訳は表1)。また、リンク情報の更新は、当面は月に1度行います。
 今後は、リンク先を拡充するのは勿論のこと、フリーで閲覧可能なタイトル一覧をお知らせする、あるいは、「フルテキストリンクあり」という絞り込み条件を備える、などにより、実用性を高めたいと考えています。

● OPAC(Online Public Access Catalogue-蔵書検索システム)連携
 医中誌Webの検索結果に、OPACアイコンが表示され、そのアイコンをクリックするとOPACの検索がダイレクトに行われます。このOPAC連携を行うには、事前の準備作業が必要です。OPAC連携の流れを図2に示します。

A:法人管理者用画面で「OPAC連携CGIのURL」など必要な項目を入力、その内容が法人情報サーバに登録される(図2参照)。
 (ここまでが、事前の準備作業)
B:エンドユーザー(検索者)が医中誌Web検索を行う。
C:検索サーバは、検索結果を表示する際に、法人情報サーバを参照し、OPACアイコンを表示する。
D:検索者がOPACアイコンをクリックする。
E:ISSNなど必要情報がOPAC連携CGIを経由してOPACに送られ、OPAC検索が行われる。
F:OPAC検索結果が表示される。

 「A」の登録内容で重要なのが、「OPAC連携CGI」です。「OPAC連携CGI」とは、医中誌Webから検索用の情報(ISSNなど)を受け取り、その情報を適切な形に変換してOPACに引き渡すプログラムです。このプログラムについては、ご利用の図書館システムのメーカーにお問合わせ下さい。(現在、医中誌Webとの連携につき医学中央雑誌刊行会と調整中のメーカー(製品名)及び問合わせ窓口のリストは http://www.jamas.or.jp/ver4/opacmaker.html に掲載されています。このリストに掲載されていない製品をご利用の場合など、ご不明の点につきましては医学中央雑誌刊行会までお問合わせください。)
 医中誌Webから送り出すデータのフォーマットは、当初OpenURL形式のみを予定していましたが、OpenURLに対応していないシステムでも連携を可能とするため、OpenURL形式に加え、ISSNを任意の形式で送り出す方式を追加しました。
また、図書館で所蔵している雑誌のISSNリストを所定のフォーマットで作成して医中誌Webサーバに登録することにより、「図書館で所蔵している雑誌の文献についてのみ、OPACアイコンを表示」とすることも出来ます。
 なお、全く同様の手順により、リンクリゾルバへの連携も行えます(図3)。

●所蔵を示すアイコンを検索結果に表示
 ユーザー会の質疑の際「OPACは導入していないが、所蔵している雑誌の文献に、所蔵を示すアイコンを表示出来たら便利」との要望を病院図書室の司書の方から頂きました。これに「そのアイコンをクリックすると、ホームページの所蔵情報ページへリンク」する機能を付け加え、Ver.4の新機能として実現することとしました。
 OPAC連携と同様、法人管理者用画面で事前の準備作業を行います。「所蔵している雑誌の文献」にのみアイコンを表示する機能なので、所蔵している雑誌のISSNリストの登録が必須です。更に、アイコンをクリックするとホームページの所蔵情報ページにリンクするようにしたい場合は、そのページのURLを登録します。

●法人管理者用メニュー
 Ver.4では、新たに「法人管理者用メニュー」が設けられました。当面は、下記の3つのメニューが用意されています。なお、Ver.4検索画面のサイドメニューから、法人管理者用メニューのログインページへのリンクが張られていますが、このリンクが一般ユーザーには見えないほうが良い場合には、「デフォルト設定」で非表示に設定することも出来ます。また、テスト公開中にここで設定した内容は、特別な不具合のない限り本公開後もそのまま引き継がれます。

○デフォルト設定 (図4)
 「医中誌Web」の利用層の幅が広がり、それぞれのニーズが異なる状況に対応するため、まずは機関ごと、追って個人ごとに、主な項目についてデフォルト値(初期値)を設定出来るようにします。
 ニーズの異なりとは、例えば、検索対象年は一般的には「最新5年分程度」が適当、という場合が多いのですが、企業ユーザーの場合「全年」を対象とする場合が多い、などです。設定項目はご要望に応じ、新たな項目を追加予定です。

○外部リンク (図3)
 当面は、上述したOPAC連携のための設定のみ行えますが、今後、他の形での外部サービスへ連携が可能となった場合は、このメニュー内で登録を行うこととなります。

○ログ閲覧 (図5)
 アクセスログの閲覧ページをここに包含しました。閲覧出来る内容は、1時間単位のログイン数、最大同時アクセス数、同時アクセスオーバー数など従来どおりです。

●印刷、ダウンロードなど出力の流れの改善
 出力設定を含め、出力の流れをより分かり易くしました。Ver.4では、印刷は下記の流れに従って行います。

1.「タイトル表示」または「詳細表示」で印刷したい文献をチェックする。
2.プリンターのアイコンをクリックすると、チェックした文献が別ウィンドウに「印刷用表示」で開く。
3.印刷内容や、ソート順を変更したい場合は、「▼印刷内容などを変更する(開閉)」のリンクをクリックし、設定エリアを開いて変更する。
4.プリンターのアイコン(「印刷実行」)をクリックすると、印刷が行われる。

 従来は、いったん「印刷用表示」に表示内容を切り替えた後に、ブラウザの印刷機能で印刷、というやや分かり難い仕様であったのを改めました。
 また、印刷、ダウンロード、メール送信の出力設定の変更が従来より自然な流れの中で行えるようにしました。
 なお、ユーザー会の時点では、「印刷」「ダウンロード」など出力メニューはプルダウンから選択、との仕様でしたが「プルダウンはエンドユーザーには分かり難い」とのご意見を多く頂き再検討した結果、それぞれのイメージアイコンを並べるデザインに変更しました。

●その他の新機能・修正点
 1月に公開予定のその他の新機能、及び修正内容は下記のとおりです。
〈新規機能〉
○「クリップボード」の新設
 ログイン後、一回の検索を行う都度、必要な文献をクリップボードに保存し、何回かの検索を終えた後でまとめてクリップボードから印刷・ダウンロード・メール送信が行えるようになります。
〈機能修正〉
○タイトル表示や詳細表示での文献のチェックが、ページを変えても無効とならないようにする。
○Advanced Modeで、何件か前の履歴を再度呼び出したいときは、ステップナンバー(#1、#2など)のリンクをクリックする。
○タイトル表示の時点で、抄録の有無が分かるようにする。
○履歴の部分的な削除を可能とする。
○ダウンロードデータ、及び、印刷用表示に、意味のある履歴を出力可能とする(Ver.3では、「#1 and #2」など後から見たときに意味がない履歴が出力されているので、ステップナンバーを式に展開して出力する。
○標準形式でダウンロードした場合、すべての行頭に「タブ」が入力されているが、これを省略する。

●おわりに
 「Ver.4」は、2006年1月の第一段階のリリース後、さらに段階的にリリースを重ねていきます。第二段階以降の内容としては「書誌確認画面の新設」「個人でのデフォルト設定」「SDIサービス」「API公開により、外部からの医中誌データを検索できるようにする」等を予定しています。次号の「医中誌News」では、それらについてお知らせしたいと思います。 
(電子出版課 松田 真美)


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医中誌の対外活動について−研究班への参加を中心に−
1.はじめに
 「医中誌Web」の利用状況を最近のアクセスログからみますと、平日1日あたりのご利用は、約15万アクセス、ログイン回数約1万3000回、検索実行回数約7万回となります。1年間では、約4000万アクセス、ログイン回数約350万回、検索実行回数約2000万回となり、1年前と比べて2割ほど増えています。
 このように多くのご利用をいただいている責任を真摯に受け止め、データベースの拡充、また「Ver.4」のリリースなどサービスのより一層の改善に努めるとともに、中長期的な今後の事業の展開を睨みながら、いくつかの研究班への参加など対外的な活動を行っています。以下、それらについてご紹介致します。

2.EBMへの対応
 当会は、諸機関のご協力を得て、EBMの実践に役立つデータ作成に取り組んでいます。
 現在、研究デザインのタグとして、1999年作成以降の医中誌データベースに、「メタアナリシス」、「ランダム化比較試験」、「比較臨床試験」、「比較研究」(2003〜)、「診療ガイドライン」が追加されています。前者3つのタグについては、東京大学の津谷喜一郎先生が主宰する『JHES(日本ハンドサーチ・エレクトロニックサーチ)研究会』が見出した文献情報を、ご了解を得て、2001〜2002年作成データに反映させていただいております(JHESのホームページ)。「診療ガイドライン」については、東邦大学医学メディアセンターのホームページで公開されている診療ガイドラインのリストを、ご快諾の上参考にさせていただきました。
 「診療ガイドライン」のタグが付与された書誌データは、当会
のホームページでも7月中旬より公開しており、「医中誌Web」をご契約いただいていない方でもご覧いただけます(図1)。
 これらの研究デザインに対する取り組みにより、近年、学会や研究班によるEBMに基づいた診療ガイドラインの作成では、海外文献検索のMEDLINE(PubMed)と並んで、国内文献検索では「医中誌Web」が広く利用されています。
 また、日本医療機能評価機構の医療情報サービス「Minds」では、国内で作成された11疾患の診療ガイドラインを公開しています。そこでは、当会の「医学用語シソーラス」がMindsの詳細検索や「Mindsキーワード」付与の際の参照に利用されています。
(Mindsのホームページ http://minds.jcqhc.or.jp/to/index.aspx)
 今後も、EBMへの対応により、医療の質の向上に役立つデータベースとしての改善に努めてまいります。

3..国際協力
〈US Cochrane Centerへの国内RCT文献データの提供〉

 東京大学の津谷喜一郎先生が主宰する『JRCT(日本のランダム化比較試験データベース)』研究班では、日本医学図書館協会の協力のもと、国内発行の雑誌に掲載されたランダム化比較試験(RCT)および比較臨床試験(CCT)の論文を過去に遡ってハンドサーチにより見つけ出し、そのデータベースを作成しています。(JRCTについてのホームページ http://jhes.umin.ac.jp/)
 英語に翻訳したデータは、US Cochrane Centerに提供することにより、「Cochrane Library」の中の「CENTRAL」に収録されます。今までに、国内の8つの雑誌に掲載されたRCTおよびCCT論文の文献データ1190件が収録済みです。現在、ハンドサーチやデータ入力などの作業中の文献データが4000件ほどあり、完成次第収録される予定です。(US Cochrane Centerのホームページ http://www.cochrane.us/masterlist.asp)
 当会は、データベースの作成からUS Cochrane Centerへのデータの送付作業、およびJRCT研究班のfundingと事務局を担当しています。

〈米国国立医学図書館(NLM)で開発されたUMLS(Unified Medical Language System;統合医学用語システム)への日本語医学用語の登録〉
 お茶の水女子大学の脊山洋右先生が主任研究者の厚生労働科学研究『UMLSと連携した日本語医学用語シソーラスの実用性に関する評価』研究班の協力により、UMLSへの日本語医学用語の登録を行っています。(脊山研究班のホームページ http://jumls.h.u-tokyo.ac.jp/)
 現在、UMLSに日本語として医中誌の医学用語シソーラスの64,602語が登録されています(図2)。

 UMLSはPubMedの検索システムで活用されていますので、近い将来、日本語によるPubMedの検索が可能になるかもしれません。

4.患者・一般への医療情報提供
 最近、患者・一般への医療情報提供の取り組みが新聞などで取り上げられていますが、京都大学の中山健夫先生が主任研究者の厚生労働科学研究『「根拠に基づく診療ガイドライン」の適切な作成・利用・普及に向けた基盤整備に関する研究:患者・医療消費者の参加推進に向けて』研究班に当会は事務局として参加しています。
 この研究班では、公開フォーラムを継続して開催していますが、診療ガイドラインの適切な作成・利用・普及を進めるため、例えば、診療ガイドラインの作成に患者・消費者が参加するなど、患者・医療消費者が納得のできる医療を享受できるための社会環境の整備を支援しています。
 また、患者への医療情報の提示の方法について患者団体と協同で研究を進めたり、日本医療機能評価機構の医療情報サービス「Minds」の一般向け情報と連携したりしています。
患者・一般への医療情報の提供については、今後、様々な関係団体と協力しながら取り組んでいく予定です。

5. おわりに
 当会の組織形態は、2002年に任意団体から特定非営利活動法人(NPO)に変更され、経営基盤が一層強固となりました。
 また、医学・医療情報の必要性が一般の人々にまで広く認識されてきており、より多くの皆様に情報をご利用いただくための環境作りが求められています。
 インターネットを介することで、様々なサービス同士が簡単に連携できるようになりました。これからは、インターネットの特長を生かすことで、従来の枠にとらわれずに医学・医療情報を広く発信するため、積極的に関係機関・団体と事業協力を進めていく必要があると考えています。

〈「医学中央雑誌ユーザー会」(2005年7月20日〜29日開催)での発表内容を一部加筆・修正しました。〉

(統括本部 三沢一成)

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医療の質の向上と文献情報の役割

北村 聖 先生
東京大学医学教育国際協力研究センター教授、同大学附属病院総合研修センター長、医学中央雑誌刊行会編集委員、専門は血液内科学


1. 医療の質が問題となる背景
 今、なぜ医療の質が問われるのか?それは「医療の質は均一ではない」事実が広く知れわたるところとなり、その当然の結果として、患者さんが「質の高い医療機関を受診したい」と考えるようになったからである。では、医療の質とはどのように測れるものなのか?また、医療の質とは何なのだろうか?

2. 医療の質「みたいなもの」
 ざっと挙げてみただけでも表1に掲げたような多くの項目がある。しかし、それらが医療の質と実際にどれくらいの関わりがあるのか、という判断はなかなか難しい。
 1年以上前となるが、ある新聞に「肝臓がん:5年生存率、情報公開で向上――治療再検討し、62% → 73%」との記事が掲載された。「生存率」という言葉はマスコミで良く使われる言葉だが、実際にはがんのいろいろな状態など数字には表れない部分が沢山ある訳で、この記事は、数字だけが取り上げられている例と言える。
 この類の新聞記事は他にも見られ、マスコミには「何が医療の質か」という提言をきちんとしようとしないままに医療の質を問いたがる、という傾向が少なからずあり、生産的でないように思える。
 もう一つの例として、オリコンによる「患者が決めた! いい病院」、これは患者さん9万人にアンケートした結果を報じたもので、医療水準、医師の説明、スタッフ、設備、プライバシー、待ち時間、交通の利便性など多様な観点から評価を行っているが、「駅からの近さ」から「医療水準」に至るまでの異質な項目を一様に扱っていることに疑問を持たざるを得ない。

3. 医療の質の評価指標の分類
 そこで、医療の質の様々な評価指標を整理してみたい。
 まず、医学的な指標と医学的でない指標とに区分し、さらにアウトカム評価、つまり物事が終わった後に評価できる指標と、プロセス評価、つまり病院を運営していく過程あるいは治療を進行させていく過程での指標とに分けてみた。これらを組み合わせると「医学的なアウトカム評価」「医学的でないアウトカム評価」「医学的なプロセス評価」「医学的でないプロセス評価」となる。それぞれに該当する指標を図1に例示した。このうちのどれが病院の質を最も表現しているかと言うと、「全部」であり、それぞれの特徴を理解した上で医療の質を検討すべきであろう。例えば「医学的なアウトカム評価」である「生存率」と、「医学的でないアウトカム評価」である「患者満足度」を比較しても意味はない。

4. いくつかの医療の質の評価指標
〈病院機能評価〉
 これは、先に挙げた観点から言うと、「アウトカム評価」ではなく「プロセス評価」である。例えば、「臨床検査」の項目においては各種マニュアルの整備、24時間対応可能な緊急検査の体制等々。「このプロセスを踏んでいれば良い医療か」とは一概には言えない部分があるが、比較的簡単に改善できる、という意味では良い評価である。
〈クリティカルパス〉
 これは、ある特定の疾患についての標準手順書であり、エビデンスのある標準化された医療が提供できるため、医療の質が保証され、ひいては患者満足度の向上に繋がるのがメリットである。デメリットとしては、医師の裁量権が限定されることにより、医師の個別性や応用力にマイナスとなること等が挙げられる。
〈メディカルインディケーター〉

 ここで紹介するのはアメリカのランド社が出している「General Medical Conditions」だが、500近い項目について、行われるべき診断、治療等のチェック項目が列挙されている。例えば糖尿病の項における「食事療法や運動療法のカウンセリングをしていますか?」「糖尿病で蛋白尿がある場合ACE阻害剤を投与していますか?」に見るように、過去の医療行動を振り返っての評価、即ち「アウトカム評価」であり、また、ある臨床状況に絞って測定されるものである。
〈ガイドライン〉
 それぞれの患者に対して行うべき臨床行動の指針を示すもので、診断から治療までを包括的にカバーするもの。ガイドラインの使い方に関してはいろいろな考え方があるが、金科玉条のようにひたすら守るのではなく、「自分の患者さんはガイドラインにぴったり当てはまるのか」という検証に基づくフレキシビリティが重要かと思う。
〈日本版メディカルインディケーター〉
 「医学部長病院長会議」の「医療の質検討委員会」において、日本版のメディカルインディケーターを検討している。まだ結果は出ていないが、「患者満足度」「救命率」「合併症」「感染防御」などのアウトカム指標、「診療構造」「情報開示」「カルテ」などのプロセス指標、双方について調査している(表2)。

5. 私が考える文献情報と医療の質の向上
 EBMの実践における文献検索に関し、4年生の学生を対象に授業を行った。6年間の教育の4年目というのは、臨床の講義を終えてはいるが、実習は未だ、という段階である。小グループ編成で、学生個々に具体的な診療上の問題を課し、2週間後に自分で解答を見出し、報告するPBL(Problem-based Learning) 方式である。
 一例を挙げる。『50歳の男性。身長 179cm。体重 80kg。これまで血圧の異常を言われたことはなかったが、3ヶ月前から血圧が自己測定で 150-160/100-90 になった。降圧剤を服用したほうが良いだろうか、すなわち、降圧剤は脳出血や脳梗塞あるいは心筋梗塞の可能性などを減らすことはできるか。もし服用するとしたら、どの種類の降圧剤から始めれば良いだろうか。そして、血圧の目標値はどの程度だろうか。』
 この問題を課された学生は、図書館やコンピュータを利用し、日本高血圧学会の治療ガイドラインをベースにし、キーとなる文献を探して、読み、分析し、4年生としては満足できる内容をパワーポイントでプレゼンテーションしてくれた。ここで教師からのアドバイスを行う。このような形の授業は、教科書や教師の講義より、学生は興味をもって結構調べてくるし、身につくものである。
 時間を惜しまない学習ならばそういう話であるが、さて、臨床家にとってはどうか。臨床家が、このような課題をもって図書館にきたならば、「3ヶ月間は生活習慣をあらためる努力をしてもらい、それでも血圧が高いなら、この薬を処方する、目標値はこうこうで」という解答を、根拠ある情報としてスパッと示してくれる。そんな情報サービスが実現しないものだろうか。

6. 最後に
 最近はEBMという言葉を聞くことが少なくなったが、これは流行に弱い日本人の悪い癖の典型と言える。EBMは細く、長く、ベーシックなものとしてずっと実践して行かなければいけないものなのである。EBMの実践、即ち、文献情報を地道に評価して行くことにより、先に述べた「医学的なプロセス」の向上と同時に、「医学的なアウトカム」も向上すると信じている。
 つまり、例えば「根拠に基づき違う薬を使う計画を立てる」というようなプロセスの改善を実行する →それにより例えば生存率はどうなったのか、というアウトカムの評価を行う → その評価を再度プランに戻す、という Plan-Do-Checkのサイクルが重要であり、このサイクルができることが医療の質の向上につながると思う。
 医療の質は何か、といえば、それは「患者さんが安全であること」「病気が治ること」「気持ちが良いこと」、である。その目標に向けて Plan-Do-Check のサイクルを動かしている病院こそが、質の良い病院だと考える(図2)。

〈この原稿は、「医学中央雑誌ユーザー会」(2005年7月20日「東京ガーデンパレス」にて開催)での講演内容をまとめたものです。〉


 

病院図書室を地域に開放してー医学・医療情報のバリアフリー化を目指して

戸津崎 茂雄 先生
特定医療法人 健康会 京都南病院 理事、
元病院長


1. はじめに
 京都南病院は、表1に示すとおりの「中規模の一般病院」である。経営形態としては、オーナーのいない特定医療法人で、現在は老健施設と6つの診療所を有し、臨床研修指定病院としての指定を受けている。
私は、大学卒業以来、30数年を京都南病院で過ごして来たが、その中で「病院図書室を地域に開放する」「医学・医療情報のバリアフリー化」ということをスタッフの一員として、考え、目指してきた。そのことをお話したい。

2. 地域の一員である京都南病院
 京都南病院は、設立当初より「病院は地域コミュニティの重要な一員である」という認識の下、病院を地域に徹底的に開放することを目指し、さまざまなことを考え、実行してきた。
 図書室を地域に開放したのは1970年に遡る。1984年からは病院にボランティアの受け入れを開始した。1986年、病院の増改築の際に職員食堂を眺めの良い場所に移したが、それを患者さんにも開放した。南健康会という地域住民組織を病院が支援し、医師を囲んでの勉強会や、医師と看護師が同行する旅行会を行っている。
 また、私にとってのこの病院の一番の魅力は、昔から「往診」が行われていたことだった(そのために私は医師としての一生をここで過ごすこととなったのだが…)。その流れの中で、まだ診療報酬で認められていなかった1981年から持ち出しで訪問看護を開始した。当時の院長の掛け声は「町の路地というのは病院の廊下と思え」というものであった。
 さらに、1988年からは、住宅公団との話し合いにより、病院の上層階をケア付の公団住宅として提供するようになった。  1993年には「社会貢献委員会」を設置し、病院の外での社会活動を模索した。1995年の神戸の震災ではこの委員会がすばやく反応して東灘の小学校で40日ほど診療活動を行った。今は「地球交流委員会」と名をあらため、フィリピンのスラム街のこどもたちの里親運動をはじめとする活動を行っている。

3. 病院の持つ情報―病院の透明性という視点から
 病院のもつ情報は4つあると思う。1つは診療情報、つまりカルテ情報で、これは開示の方向に進んでいる。次に、病院の施設・機能に関する情報、つまり、医師数や看護師数、開設科目などで、多くの病院ではホームページでこれらの情報を提供しているが、今後は、もっと踏み込んだ手術件数や成績など、診療内容自体に関する情報が求められると思う。そして、経営情報、これも開示の方向での議論がある。最後に、病院図書室などで持っている医学・医療情報である。我々はこれを開放しようと考えたのである。そう考えた理由は以下のとおりである。
 この30年間に、医師と患者の関係はかつての「パターナリズム」から「パートナーシップ」に変化してきたといえる。それは言い換えると、治療方針の決定がかつての「医師の裁量」から、「患者さんの自己決定、即ちインフォームドコンセントを前提としたもの」へと変わってきた、ということである。そうであれば、患者さんが自己決定するための支援として、病院図書室にある医学・医療情報の提供が有用ではないかと考えた。
 患者さんが情報を得る手段として考えられるのは、「医師からの説明」「テレビや新聞などのメディアからの情報」「インターネット」「闘病記」、そして「健康図書や専門書」。この最後の「健康図書や専門書」に関して、病院図書室の医学医療の専門書、専門情報を、インフォームドコンセントの支援に活用できないか?また、病院図書室を、地域に対する専門情報の発信基地として位置付けられないか?と考え、実行したのである。
 実行に踏み切ったきっかけは2つあった。1つは、患者さんの声。前述のとおり、1970年以来、図書室の開放は行ってきたのだが、あくまで「一般書コーナー」のみであった。そこで患者さんから、「奥に見える専門書コーナーを利用したい」との声が上がったのである。もう1つは、「医学図書館」に1994年に掲載された「患者が求める医学医療情報」という伊勢美子さんによる論文で、乳癌を患い、納得した上で治療を受けたいと考えたときに、そのために必要な専門的な情報を得るのがあまりに困難であった、との内容に、背中を押された。

4. 専門書の開放にあたって考えたこと、また開放までの経緯
 医学医療情報の特殊性は、2つあると考える。ひとつは、情報自体のあいまいさ。医学は不確実性の科学であり、医療はその個々の患者への適用である。2つ目は、伝達の難しさ。「医薬産業政策研究所」が実施したアンケート結果によると、「医師と患者が双方とも複数の治療方針を知っており、その上でいずれかに決定する、というのが望ましい」との問いに対しては、医師、患者とも9割以上がYESと答えているのだが、「実際にそのように治療方針を決めている(決められている)」との問いに、医師は83%がYESと答えたのに対して、患者は25%と大きなギャップがあった。※『医療消費者と医師のコミュニケーション−意識調査から見た患者満足度に関する分析−』(http://www.jpma.or.jp/opir/research/paper-29.pdf)
 この2点を踏まえ、医師と看護師など9名から成る図書委員会で患者への専門書の開放について検討した。そこでの議論、結論は以下のとおりであった。
 「医学専門書を開放できないのは、患者さんよりむしろ我々医療人がパターナリズム的思考から脱却できていないからではないか。」「開放にあたっては、利用者のプライバシーを最大限尊重する。」「セカンドオピニオンとしての利用、というのもありではないか。」「資料の選択は利用者が自分で行う、司書は相談には乗るが、司書の判断で選択はしない。ただし、主治医の指示にそった資料は提供する」「利用者が自由に閲覧できる資料は各科のテキストブック的なものと辞書類とする」(雑誌は当初は開放を行なわなかった。EBM的見地から、根拠が不十分な場合もあるとの判断であった。)
 上記の議論をもって、最終的には医局会議に諮ったところ、予想外にあっさりと承認された。その際に、「開放の結果、患者が専門書を読んで目の前に現れることとなると思うが、それに対して不快の意思表明は絶対しないでほしい」こと、また「専門書の記述により、患者が動揺した場合には主治医としてしっかりサポートしてほしい」ことを述べた。

5.利用の現状
 このような経緯により、1997年から、病院図書室における専門図書の公開が始まった。利用に当たって、患者さんや地域の人々には3項目のお願い、つまり「@特定の治療方法を薦めるためのものではけっしてありません。それ以外にも治療方法はあるでしょう。」「A患者さんの病気に関する知識の全てではありません。病気に関する知識はどんどん変わっていますし、他の考えもあるでしょう。」「B患者さんの現実の状態と完全に一致するものではありません。患者さんの状態は年齢や病気の進み具合など千差万別です。同じ病名を持った患者さんでも病状や治療方法は一人一人で異なります。」を掲示している。
 患者や地域住民による専門書の利用状況であるが、自由に閲覧できるシステムにしているので利用実数は掴み難いが、利用者カードなどからの推計では一日に1〜2件の利用のようである。
 専門書に何を求めて利用しているのか。「病気の理解を深めたい」(自分の病気あるいは家族の病気の知識をもっと得たい。闘病のために或いは患者介護のために。)、「セカンドオピニオン的な利用」(主治医の説明を納得したい)、「医学・医療の知識を得たい」、などの利用目的がある。

6.おわりに
 市中病院の図書室の役割について、私は、医療スタッフへの専門情報の提供は当然のこととして、それに加え「病院という治療チームの一員」としての役割も拡げたいと考える。
 患者さんは、納得して治療を受けるために病院図書室にある医学専門書を読み、自分の病気をより深く理解する。しかし患者さんは、その病気と共に生きていかなければならないのである。そのときに「闘病記」(私は「共病記」と呼びたいのだが)が手助けとなるのではないかと考えている。医学・医療の専門書と共に、そのような書物・資料をもそろえて患者さんに提供することが、治療チームの一員としての病院図書室の役割ではないだろうか。

〈この原稿は、「医学中央雑誌ユーザー会」(2005年7月28日「大阪ガーデンパレス」にて開催)での講演内容をまとめたものです。〉

 
 
 
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